前回のブログでは、日本製鉄によるUSスチール買収に対する禁止命令の含意についてお話をさせて頂きました。今回は、その点とも関連して、本年1月20日に発足する第二次トランプ政権の通商政策のうち、まずは関税政策への対応について、私の考えを簡単にお話させて頂きます。もちろん、まだ政権発足前ですので、実際にどうなるかは分からないという前提で、お読み頂けますと幸いです。
昨年11月の米国大統領選前に、トランプ次期大統領は、全世界からの輸入品に一律10%から20%の関税を課すことを公約に掲げていました(いわゆる「ベースライン関税」)。また、大統領選後には、メキシコとカナダからの全ての輸入品に新たに25%の関税を課す大統領令に就任初日に署名する方針を公表するとともに、中国からの輸入品に追加で10%の関税を課す旨も明らかにしています。このほか、デンマークの自治領グリーンランドについて、もしデンマーク政府が売却に応じない場合には、輸入品に高い関税を課す可能性にも言及しています。
米国憲法上、関税措置を課す権限は議会に与えられていますが、実際には、これまで議会が定めた様々な法律によって、一定の条件下で大統領に追加関税を課す権限が与えられています。そのため、トランプ次期大統領が、自らの権限でこれらの関税を課すことは可能だと考えられます。そして、第一次トランプ政権において、日本を含む同盟国も追加関税の対象国とされたことに鑑みれば、同盟国に対しても追加関税を課してくる可能性は十分にあります。ただし、これは必ずしも就任初日から関税率が上がるということを意味せず、どの法律を根拠とするにせよ、実際に関税が上がるまでには数週間から1年程度の猶予期間があるものと思われます。そして、トランプ次期大統領は、その間に各国の譲歩を引き出すための二国間交渉を行うだろうと考えています。
松本いずみは、第一次トランプ政権下の2016-20年の間、経済産業省において、多くの通商交渉に従事した経験があります。その際の経験からは、トランプ氏は決して理屈では説得されず、「こいつは自分の仲間だ」と思ってくれて、初めて耳を傾けてくれるようなところがあります。したがって、正面から「追加関税はおかしい」と正論をぶつけてもあまり効果はありません。どうにかして彼の懐に飛び込む必要があります。
この点、トランプ氏の心に響くものの一つは、先日、孫正義ソフトバンクグループ会長が、4年間で1,000億ドル(約15.7兆円)もの米国への投資を表明したように、米国に対して新たに投資を行い、雇用を生み出すことの約束です。こうしたお土産があると、「こいつは俺のことを分かっている」と思ってくれて、相手に対して譲歩を示してくれる可能性があります。また、安倍元総理がやられていたように、ゴルフなどの機会を通じて「友人」になることにも意味があると思います。
松本いずみは、もし上で述べた追加関税が課されるとした場合、それらの措置は一方的で不当なものであり、ましてや日本などの同盟国に課す正当な理由はないと考えていますが、こうした正論が必ずしも通用しないことは前述の通りです。日本企業の活動、消費者の暮らし、ひいては日本の国益を守るためには、自由貿易の重要性を変わらず主張しつつも、日本に対する追加関税が免除されるよう、水面下で第二次トランプ政権と交渉を行うしたたかさが必要だと思います。
そして、その際に鍵となるのは、前述の米国への新規投資の約束と、首脳間の信頼関係です。それらに加え、日米貿易協定の改定や米国製品の輸入拡大などの様々な策を組み合わせながら、日本の国益を守っていく。こうしたことができるのは、これまでどのようなときも米国との外交・通商関係を責任をもって担ってきた実績を持つ、自民党・公明党の連立政権だけだと考えています。今は日本経済のこれからにとって非常に大事な時期です。政府・与党で一丸となって、日本の国益を守るため、第二次トランプ政権との交渉に全力で取り組んでいきたいと考えています。