今年に入って政策に関する少し堅い話題が続きましたので、今回は改めて、私の古巣である経済産業省についてお話させて頂きたいと思います。今回の内容は、経済産業省における1年間の政策立案の大まかなスケジュールについてです。
1.「人事異動=一年間のスタート」(4-7月)
官庁は、多くの日本企業と同じく、毎年4月から3月までの「年度」単位で仕事を行っていますが、実際には7月頃が実質的な一年間のスタートだと捉えている人が多いと思います。というのも、通常国会が閉幕した6月下旬から7月にかけて、事務次官や局長、審議官、課室長といった、いわゆる幹部級の人事が行われるため、幹部交代とともに新しい一年間の政策プロセスが始まることになるためです。なお、課室長より下のポストである課長補佐や係長、係員級の人事は、それより早く4月下旬-6月半ば頃に順次行われ、課室長の交代に備えて一足早く政策の勉強に励むことになります。
2.「夏場=政策の仕込み」(7-9月)
幹部級の人事が行われた後、7-9月の夏場においては、翌年に向けた新しい政策の検討が各課室で行われることとなります。いつ頃までに何を達成することを目指すのか。そのために逆算していつまでに何を終えておくべきなのか。こうしたことを、各種文献に当たったり、国内外の有識者・企業・団体などからお話をお伺いして、具体的に詰めていくこととなります。もし法律改正を行ったり、新法を制定する場合には、翌年ではなく2年後を目指してスケジュールが組まれることも多いですが、緊急の場合には、翌年の通常国会への提出を目指して夏場から寝ずの作業が続くこともあります。また、予算が必要となる政策については、8月末までに財務省に「概算要求」という形で政策を登録することになります。
3.「秋=省外を巻き込んだ本格的検討」(10-12月)
10月頃になると内部での検討を終えて、審議会や研究会を立ち上げたり、内閣法制局に法律案を持ち込んだり、他の省庁と調整を行ったりと、経済産業省の外部を巻き込んだ実質的議論が始まることになります。多くのケースでは、秋が最も忙しく、連日、省内外に説明にお伺いしたり、次の審議会・研究会に向けた資料を作成したり、他の省庁と調整したりということが夜中まで続きます。また、アメリカやEUなどの諸外国との調整や意見交換のため、多忙な合間をぬって海外出張などもよく行われます。
4.「冬=政治との調整」(1-3月)
省庁内で検討している政策をいつ与野党に説明するか。これは政策によってタイミングが異なりますが、省内外を巻き込んだ本格的検討が終了し、ある程度政策実現の目途がついた、年明け1-2月頃が一つのタイミングです。このとき、官僚は手分けをして与野党の議員に個別に説明に伺ったり、部会と呼ばれる与野党の政務調査会の会合に出席して説明や質疑応答を行い、政府が検討している政策についての理解を求めていくことになります。なお、予算や法律改正を伴わない政策(外国との国際会議の実施や、政省令の改正などの技術的事項等)については、こうしたことは通常行われません(もちろん、説明を求められた場合にはお伺いすることになります)。
5.「春=政策の実現」(4-6月)
こうしたプロセスを経て、法律であれば改正法/新法の成立、予算関連の政策であれば次年度予算案の成立に辿り着けた場合には、4-6月頃に晴れて政策が実現することとなります。また、残念ながら実現しなかった政策や、最初から2年間のスケジュールを組んでいた政策については、改めて翌年に向けた検討が進められることになります。なお、無事に政策を実現した幹部は、その年の夏の人事異動における「ご褒美=昇進」を期待して、6月に入った頃からそわそわし始めることが多いです。
上記で述べたスケジュールはあくまで通常時の一例であり、急な災害が発生した場合や、予期しなかった突発的事態が発生した場合には、こうしたスケジュール感が大きく変化する(大幅に前倒しになったり、逆に完全にストップしたりする)こともあります。とはいえ、こうした大まかなスケジュール感を頭に入れておくと、いつ、誰に対して相談に行けばよいのかという何となくの相場観がつかめて有用だと思います。
政策は実現しなければ意味がない。批判をするだけでは何も変わらない。松本いずみは、中身も大事ですが、政策立案のプロセスをしっかりと理解して、正しい手順を踏むことこそが、日本を進めていく第一歩だと考えています。