今回は、トランプ大統領の就任初日(令和7年1月20日)に署名された大統領令のうちで、「アメリカ・ファースト貿易政策」と題された大統領令について、その特徴的な通商政策の位置づけと日本への含意について、簡単に述べさせて頂きたいと思います。

America First Trade Policy – The White House

まず、この大統領令の第1条には、次の文言があります。

「私の政府は、通商政策を国家安全保障の非常に重要な構成要素の一つとして捉え、米国にとって鍵となる安全保障上の要請を満たすために、他国に対する米国の依存度を低減させてきた(My Administration treated trade policy as a critical component to national security and reduced our Nation’s dependence on other countries to meet our key security needs.)」

ここには、第一次政権以降、トランプ大統領が一貫して、通商政策を「安全保障を確保するための手段」として捉えてきたという認識が示されています。

これまで米国においては、1944年のブレトン・ウッズ合意以降、自由貿易こそが原則で、安全保障を理由とした貿易制限は、あくまで一部の軍事品や機微技術などに限定した例外的なものだと考えられてきました。その理論的背景として、一般には、経済学における「比較優位の原則」、すなわち、各国が自国の得意とする財の生産に専念し、それらの財をお互いに自由貿易に基づいて輸出入することで、いずれの国も豊かになるという原則が語られることが通常でした。

このほかにも、自由貿易の意義として、例えば、国際関係論などにおいては、貿易を通じて各国がお互いに依存しあうことによって戦争が起こりづらくなる、という「相互依存論」が語られることがあります。ただし、それはあくまで貿易の「結果」であって、貿易を行う「目的」そのものではありませんでした。したがって、この文脈で通商政策を「安全保障を確保するための手段」として用いようと主張されることも、これまで一般にはなかったと認識しています。

この大統領令で示されているトランプ政権における通商政策の位置づけは、これまでの伝統的な米国の立場とは大きく異なり、通商政策を「経済の繁栄のための手段」ではなく、「安全保障の手段」として用いることを(改めて)宣言したものだと言えます。米国においては、常に「経済か、安全保障か」という議論がありましたが、ここでは、米国において輸出管理制度が創設された第二次世界大戦以来、初めて「安全保障の優位」が明確に宣言されたと言うことが出来そうです。いわば、現在は「準戦時下」なのだとトランプ大統領が捉えているということなのかもしれません。

この大統領令には、メキシコやカナダ、中国に対して追加関税を課すための調査を命じる条項なども盛り込まれていますが(第2条(i)及び第3条各号など)、ここでは日本に関係しうる条項を簡単に見ておきたいと思います。

まず、トランプ大統領が大統領選挙の際にも言及していた、全世界からの輸入品に一律10-20%の関税を課すという、いわゆる「ベースライン関税」の導入に向けた調査を商務長官に命じる条項です(第2条(a))。また、為替介入が不公正な貿易上の便益を与えていないかについて財務長官に調査を命じる条項も盛り込まれています(第2条(e))。将来的にこれらの条項に基づいて、同盟国である日本に対してまで追加関税が課されるリスクがゼロではない点に留意が必要だと思います。

また、米国が他国と締結している自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)について検証し、必要な修正を提案すべきことを米国通商代表に命じる条項も存在します(第2条(f))。日本は第一次トランプ政権の時代に、自動車や自動車部品に対して追加関税が課されるのを回避するため、2019年10月に日米貿易協定及び日米デジタル貿易協定という二つの協定に署名しました。これらの協定は2020年1月に発効しましたが、農産品や工業製品などの米国製品の日本市場へのアクセスが十分ではないとして、追加関税の脅しをテコにしてこれらの協定の改定を求められるリスクもあります。

最後に、米国の国家安全保障を脅かす輸入品について検証することを商務長官に命じる条項です(第4条(a))。この条項が具体的に何を念頭に置いているのかは現時点で判然としませんが、第2条の調査事項にうまくはまらない日本からの輸入品につき、この条項に基づいて追加関税や輸入禁止などの措置が課されるリスクも全くゼロとまでは言えないのかもしれません。

第二次トランプ政権は発足したばかりであり、今後どのような貿易上の措置が同盟国である日本にまで課されるのかは分かりません。現時点では上記のリスクは必ずしも高いとまでは言えず、これらが単なる杞憂に終わることを願っておりますが、日本国民の暮らしと安全を預かる政府・与党としては、万が一のリスクにも備えた万全の準備をしておく責任があると考えています。すべてはこの国と柏市の皆様のために、これからも松本いずみは頑張って参ります。