2025年2月7日に、石破総理とトランプ大統領による初めての首脳会談が行われました。今回は、会談後に公表された日米首脳共同声明の意義について、私の所感を簡単に述べさせて頂きたいと思います。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100791692.pdf
https://www.kantei.go.jp/jp/103/statement/2025/0207kyodo_kaiken.html
まず、大前提として、今回は、トランプ新政権との間で、これまで日米間で積み上げてきた各分野における二国間の連携が引き続き継続されることを確認できたこと自体に大きな意味があった、ということです。言い換えれば、まだ新政権の発足後間もないことから、このタイミングで何か新しい二国間のプロジェクトを発表することは基本的に念頭に置かれていなかった、という点に留意が必要です。
その上で、昨年4月10日に公表された岸田前首相とバイデン前大統領との間の日米共同声明と比較すると、実は、多くの点で日米間の連携が継続していくことが示されています。
安全保障の面では、特に、日米安全保障条約第5条の義務、いわゆる米国による日本の防衛義務が、尖閣諸島についても適用されることを改めて確認できたことが重要です。加えて、有事の際に日米間で作戦と能力の統合を可能にするための、「自衛隊及び米軍のそれぞれの指揮・統制枠組みの向上」を行う意図も確認できたことは、大きな安心材料だと思います。細かい点は色々とありますが、この2点を確認できたことは、トランプ政権下においても、基本的にこれまで通り日米間の安全保障・防衛協力が継続していくことを意味しています。
経済の面では、やはり「二国間の投資及び雇用の大幅な増加」が目を引きます。そして、日米共同記者会見において石破総理が述べたように、日本の対米投資額を1兆ドル(約151兆円)に引き上げるために「共に取り組みたい」という点が非常に重要です。つまり、日本が一方的に対米投資を増やすのではなく、それに向けて米国も取り組んでいくことへの日本側の期待が表明されています。ここには、日本製鉄によるUSスチールの買収を認めてほしい、少なくとも、CFIUSの判断基準が不明確なことによる日本企業の対米投資に対する懸念を払拭してほしい、という意図が込められています。ここにおいて、日本製鉄によるUSスチールの買収を「投資」の一環として位置付けたことの外交上の巧みさがよく表れていると思います。
そして、インド太平洋地域における二国間協力の面では、やはり中国による東シナ海における現状変更の試みへの強い反対、台湾海峡における一方的な現状変更の試みへの反対、北朝鮮の完全な非核化、そして拉致問題の即時解決が、それぞれ確認できたことの意義は大きかったと思います。冒頭で「自由で開かれたインド太平洋の実現」に向けて協力していくことが確認されていることとも合わせ考えれば、トランプ政権のインド太平洋政策の大枠はバイデン政権下と大きく変化していないと言うことができそうです。
一方、今回の共同声明で変化があった点として目につくのは、「ゼロ・エミッション」や「クリーンエネルギー」という言葉がなくなり、環境問題への米国のコミットメントが消え去った点です。その代わり、日本へのLNG輸出の増加によるエネルギー安全保障の強化という側面が大きくクローズアップされています。また、ウクライナ問題への言及がなかった点も、現在、トランプ政権がロシアによるウクライナ侵攻の終結に向けて努力していることに鑑みれば、ある意味で当然のことと言えるのかもしれません。
このように、今回の日米首脳共同声明では、安全保障、経済、インド太平洋の3つの側面において、これまで積み上げてきた日米間の協力が継続していくことを確認出来たという意味において、非常に大きな意義があったということができます。そして、こうした日米間の連携強化は、日米首脳会談によって一件落着となるものではありません。むしろ、自民党・公明党と米国の共和党や民主党との間における議員外交、日米政府間における政府間の対話、そして日米の民間企業同士における交流などを通じて、これからも様々なレベルで維持・強化していくべきものです。松本いずみとしても、政府・与党の一員として、これからも日米間の連携を更に深めていくことによって日本の国益をしっかりと守り抜いていきたいと考えています。