本年は、5年に1度行われる年金の「財政検証」を踏まえた年金制度改革の年です。松本いずみは、税・社会保障一体改革が、国民の将来不安を解消するための大きな鍵の一つだと考えており、経済産業省時代からこの問題を長年に渡って考えてきました。これから2回に分けて、今回の年金制度改革案に対する私の考えをお話させて頂きたいと思います。

(1)今回の年金制度改革案の目的

まず、今回の年金制度改革案の目的として、大きく二つの点があります。第一に、ライフスタイルの多様化を反映して、働き方により中立的な年金制度を構築することです。近年は、単身世帯が増加するとともに、共働き世帯が専業主婦世帯を上回るようになっており、年金制度が前提としていた家族モデルが変わりつつあります。この点を踏まえ、どのような働き方に対してもより中立的で、公平感のある年金制度を構築することが、今回の改革案の第一の目的となります。

第二に、高齢世帯の収入の約6割を担う公的年金の底上げを図ることによって、現在の現役世代が高齢者になった際の生活の安定を図ることです。ここがしっかりしていないと、「将来、年金がもらえるかどうか不安だ」として、現役世代の方が必要以上に貯蓄をしてしまい、その結果、手取りが増えても消費が増えず、いつまでも経済が活性化しない恐れがあります。こうした状況を改善するのが、今回の改革案の第二の目的となります。

(2)被用者保険の適用拡大

このうちの第一の点、すなわち「働き方により中立的な制度を構築する」ための改革として、今回の改革案では、主に「被用者保険の適用拡大」が検討されています。これは、主婦・主夫の方などが厚生年金に加入する際の要件から、「従業員51人以上の企業」(規模要件)と「月収8.8万円以上」(賃金要件)の要件を外し、「週20時間以上働くこと」(労働時間要件)の要件に一本化するというものです。

これは、主婦・主夫の方が、いわゆる「106万円の壁」を超えないよう収入を調整して「働き控え」をしなくても済むようにする効果があります。また、勤め先を選択する際に企業規模を気にする必要もなくなります。その上、それらの方が厚生年金に加入することで、将来の年金額が増える効果もあります。こうした点を踏まえれば、私も進めるべき重要な改革だと考えています。ただし、年金保険料は労使折半であるため、新たに適用対象となる中小企業などへのきめ細かな対応が必要だと考えています。

(3)第3号被保険者制度の見直し

その上で、今回の年金制度改革案には盛り込まれなかったものとして、いわゆる「第3号被保険者制度の見直し」があります。これは、昭和60年の年金制度改革前はあくまで任意加入とされていた「配偶者」の年金権を確立するために創設された「第3号被保険者制度」をどうするか、という論点です。「第3号被保険者」の中には、短時間労働者として働く者、出産・育児/介護・看護/健康上の理由のためにすぐには仕事に就けない者など、様々な者が含まれており、一概に論じることが難しい側面があり、更なる検討が必要となることから、今回の改革案には盛り込まれないこととなりました。

松本いずみとしては、「第3号被保険者制度」には、育児や介護、病気などの理由ですぐには働くことが難しい方に対する所得保障としての機能もあり、その意義自体は必ずしも否定できないと考えています。しかしながら、共働き世帯や単身世帯との間の公平性の問題や、近年の世帯構成の変化なども踏まえるとしたならば、やはり「第3号被保険者制度」の抜本的解消に向けた具体的な制度設計を行っていく必要があると思います。ただし、その前提として、「第3号被保険者」の中で働くことが難しい方として、具体的にどのような方がどの程度の数いらっしゃり、それらの方へのセーフティネット機能をどのように確保するのか、といった点をしっかりと分析・検討していく必要があると考えています。その上で、次期年金制度改革においては、「第3号被保険者制度の見直し」に踏み込み、よりライフスタイルに中立で、公平感のある年金制度の構築に取り組んでいきたいと考えています。

今回は、やや複雑になってしまいましたが、年金制度改革案の第一の目的である、「働き方により中立的な制度の構築」に焦点を当て、松本いずみの考えを述べさせて頂きました。次回は、今回の改革案のもう一つの目的である「公的年金の底上げ」について、私の考えを述べさせて頂きたいと思います。