今回は、前回に引き続き、5年に一度の年金制度改革案について述べたいと思います。本件は、現在まさに与党内で協議中の事項ですので、未確定の部分が多くある点にご留意頂けますと幸いです。
(4) 基礎年金の底上げ
間違いなく、今回の年金制度改革案の項目の中で最大の争点だと思います。結論として、松本いずみは、これは必要な改革だと考えていますが、年金制度は将来に渡って予測可能性が担保されていることが重要であるため、この論点を政争の具とせず、主要な与野党で合意をした上で進めていくべきだと考えています。
まず、今回の基礎年金の底上げは、「基礎年金のマクロ経済スライドの早期終了」により生まれる財源と、国費の追加投入により行われる予定となっています。「マクロ経済スライド」とは、少子高齢化が進んでも持続可能な年金制度とするために、賃金や物価の伸びよりも年金額の伸びを抑える仕組みで、2004年の年金制度改革によって導入されました。日本の年金制度は基礎年金(1階部分)と報酬比例部分(2階部分)とに分かれていますが、マクロ経済スライドが適用される期間を1階部分と2階部分とで一致させること(=報酬比例部分へのマクロ経済スライドの適用期間の延長)によって、報酬比例部分の年金額の伸びが抑えられることに伴う財源が生じるため、その部分を将来の受給世代の基礎年金の給付に充てる、というものです。
これにより、2057年時点における「所得代替率」(=現役男子の平均手取り収入に占める年金額(夫婦2人分)の比率)が改革前より5.8ポイント上昇して56.2%になるものと推定されており、将来の公的年金給付の底上げが実現することとなります。全体としてみると、将来の年金水準は99.9%を超える厚生年金受給者で上昇することになりますが、2026年から2036年までに厚生年金を受給される方の一部にとっては、一時的に年金水準が低下することになります。
松本いずみは、99.9%の方の年金額が増加するから0.1%の方の年金額が低下しても構わないとは考えていません。しかしながら、それらの方にとっても、自分たちの子どもや孫の世代がより安心して暮らしていけるようにするため、自らが子供や孫のために一定金額を貯金しているのだと考えれば、一定程度納得感が得られるのではないかと考えています。ただし、一部の野党が「基礎年金のマクロ経済スライドの早期終了」の撤回を訴えることで、長期間に渡って安定的に存続すべき年金制度の信頼性が崩れてしまうことがないよう、この論点については主要な与野党で合意をした上で進めていくべきだと考えています。
(5) その他の論点
前回と今回のブログで述べた点以外にも、「在職老齢年金制度の見直し」という重要な論点が含まれています。「在職老齢年金制度」とは、65歳以上で働いている場合に、賃金と(基礎年金を除いた)厚生年金の合計額が50万円を超えると厚生年金部分が減額されるという仕組みで、高齢者の方の就業意欲を削いでいるのではないかという批判がなされることがあります。この基準額を50万円から引き上げることによって高齢者の方の就労が促されることとなり、高齢者の方の生きがいの確保と、人手不足の緩和という二つの点が確保されます。ただし、在職老齢年金制度自体を撤廃してしまうと、その分だけ将来世代の年金額が低下してしまうことから、両者の間でうまくバランスをとっていく必要があると考えています。
今回の年金制度改革案には、この他にも「標準報酬月額の上限の見直し」や「遺族厚生年金の見直し」といった大事な論点がいくつも含まれておりますが、文字数の関係上、ここでは割愛せざるを得ない点をお許し頂けますと幸いです。また、そもそも今回の改革案の検討対象から除外されてしまった「基礎年金の拠出期間の65歳までの延長」は、将来の年金給付水準の底上げを図るための非常に重要な方策であり、次回の年金制度改革では正面から議論されるべきものと考えています。
年金制度の仕組みは非常に複雑ですが、日本人の誰もがいつかは高齢者になり、若いときと同じようには働くことができなくなる以上、将来に渡って安定的な制度を作っていくことはまさに政治の責任です。松本いずみは、20年、30年、50年と安心できる日本を作っていくために、これからも全力を挙げていきたいと考えています。