米国時間の4月2日、トランプ大統領は、既存の輸入関税に加えて、全ての国からの輸入品に一律10%の基本関税を課すとともに、国ごとに更に追加関税を課す(日本については24%)ことを内容とする大統領令を発出しました。本ブログでは、今回の大統領令に対する私の考えをごく簡単に述べたいと思います。

まず、そもそも今回の追加関税を同盟国である日本に対して課すことは極めて不当であり、WTOルールに違反することはもちろん、政治的・経済的にも正当な根拠はないと考えています。また、世界全体のサプライチェーンに与える影響も甚大であり、自由貿易体制は歴史上最大の正念場を迎えている、という強い危機感を持って対処する必要があります。

その上で、日本として取るべき対応の方向性について、3点ほど述べたいと思います。

第一に、中国やEUのように、米国に対して報復措置を講じることは避けるべきです。そうした報復措置によりトランプ大統領が追加関税の関税率を引き上げる可能性は非常に高く、そうすると、日本経済はより大きなダメージを受けることになります。また、次で述べる今後の追加関税の削減・撤廃交渉にも悪影響を与えてしまう恐れが否定できません。自国より経済規模の大きい国と貿易戦争を行っても勝ち目はなく、追加関税の連鎖を避けるべく、ここは冷静に対処すべきだと思います。

第二に、米国との間で追加関税の削減・撤廃に向けた交渉を行うための手段として、日米貿易協定の改定に向けた準備を早急に行うべきです。この点、今後、米国からは、追加関税の削減・撤廃を行うための条件として、ほぼTPP並みで妥結した日本の農林水産品分野の関税の引き下げ又は撤廃が求められる可能性が高く、農林水産品分野(米、小麦、大麦、牛肉、豚肉、乳製品など)の国内調整を内々で進める必要があります。日本側には、これ以外に追加関税を削減・撤廃するための有効な手持ちカードは多くなく、石破総理による首脳会談を行う前提として、「日米貿易協定の改定」を提案できるだけの準備・検討を行っておく必要があると考えています。

なお、何故、シンプルに国ごとに異なる率の追加関税を課すのではなく、「全ての国に対する基本関税10%+特定の国に対する更なる追加関税」という二重構造を取ったのか、についても注視する必要があります。この問題意識を言い換えれば、「基本関税10%」について、どこまで国ごとに交渉余地があるのか、という点に集約されます。大統領令の文言のみを見ると、そうした交渉余地は否定されていないように見えるのですが、敢えて二段階の構造をとったことに鑑みると、米国は「基本関税10%」が課された状態を通常だと考えている、すなわち、WTOに提出している関税率の譲許表の実質的な修正を行ったのだ、とみることもできるかもしれません。もしそうだとすると、「基本関税10%」の削減・撤廃交渉は、より難易度が高くなる可能性があります。

第三に、追加関税措置の発効を見据えた、国内事業者に対する支援措置です。経済産業省は、4月3日に「米国関税対策本部」を設置するとともに、特別相談窓口の設置や資金繰り支援等を実施することを公表しました。松本いずみもこうした対応は必要だと考えていますが、やはりこれのみでは不十分で、日本政府が追加関税の削減・撤廃交渉を行っている間、影響を受ける事業者の方などが雇用や生産を維持できるようにするための支援策を、今後策定する経済対策に盛り込む必要があると考えています。なお、その際、既存のWTO/EPAルールとの整合性や、米国国内法との関係についても、十分に留意する必要があります。

最後に、今回のトランプ大統領の発表を受けて昼夜を問わず対応を行っていらっしゃる、政府、企業、関係機関を始めとする多くの関係者の皆様方のご努力に深く敬意を表したいと思います。松本いずみも政府・与党の一員として、日本経済を支えていらっしゃる皆様方のご支援に全力を挙げていきたいと考えています。