私が現在、駅や街かどにおいて最も多くお伺いしているお声は、「この物価高騰を何とかしてほしい」というものです。例えば、今年5月時点における消費者物価指数は3.7%の上昇、生鮮食品を除いた食料品に限ると7.7%の上昇、米類については101.7%の上昇を記録しています(いずれも前年同月比)。

松本いずみは、こうした物価高騰への対応は、現下の政治の最も大事な仕事の一つだと考えています。そして、これまで、物価高騰対策の本丸は「成長戦略」である、ただし国民生活の痛みに寄り添う短期の支援策も必要だと、一貫して訴え続けてきました。

多くの論者が指摘されているように、松本いずみも、バブル崩壊後の日本経済の最大の課題の一つは、物価上昇の影響を考慮した実質ベースで賃金が伸びてこなかったことにあると考えています。下記の二つの図は、経済産業省の「経済産業政策新機軸部会 第4次中間整理(案)参考資料集」13頁から取ってきたものとなりますが、ここからは、過去30年間、年率で1.2%労働生産性が上昇してきたにも関わらず、物価変動の影響を加味した実質賃金は全く伸びてこなかったことが分かります。一方、他の欧米諸国は、基本的に労働生産性の上昇に応じて実質賃金も上昇してきました。

経済学の教科書においては、「労働分配率を一定だと仮定した場合、労働生産性の上昇とともに実質賃金も上昇する」旨が説明されています。それなのに何故、過去30年間、日本では労働生産性が上昇してきたにも関わらず、実質賃金が上がってこなかったのでしょうか。この問いに対しては、昨年、ノーベル経済学賞を受賞されたダロン・アセモグル教授らによる有力な仮説などが提唱されていますが、ここでは深堀りしません。大事なことは、生産性向上を伴う「日本経済の成長力強化」と「労働分配率の向上」の組み合わせが実質賃金を上昇させること、そしてこうした中長期的な実質賃金の上昇こそが最大の物価高対策である、ということです。

同時に、こうした「日本経済の成長力強化」と「労働分配率の向上」には一定の時間が必要であることも事実です。現に、「我々もできるなら賃上げをしたいが、今は原材料費の高騰でその余裕が全くない」という、経営者の方の切実なお声も多くお聞きしています。そのため、松本いずみは、現在の国民生活の痛みに寄り添った、より短期の支援策の検討も必要だと考えています。この点、「給付」か「減税」かという論点がありますが、松本いずみは、大事な点は形式ではなく、どの政策が最も効果的か、すなわち国民生活の痛みを直接かつ迅速に和らげるために有効な政策とは何か、という点だと考えています。今回のブログでは、前述した成長戦略の中身を含め、これらの政策の詳細について論じる紙幅がありませんが、政治の責任として、財源論も考慮しながら取りうる対策を最大限講じるべきだと考えています。

「人、遠慮(えんりょ)無ければ、必ず近憂(きんゆう)有り」。これは『論語』の中にある私の好きな言葉の一つです。遠くの未来に対する熟慮、すなわち「遠慮」がなければ、必ず近い将来に厄介な問題、すなわち「近憂」が生じてしまいます。目の前の問題にばかり囚われて短期の対策だけを講じるのでは、必ず新たな「近憂」が生じる。その点をよく踏まえた上で、遠い将来に対する備えを怠らないことこそが、私は政治の責任だと考えています。同時に、目の前の国民の苦しみに寄り添うことも政治の大切な役割の一つです。松本いずみは、両方の視点を踏まえた短期と中長期の双方の物価高対策を策定することこそが、今の政治に求められていると考えています。