11月7日(金)に行われた衆議院予算委員会における、いわゆる「存立危機事態答弁」を受けて、現在、日中関係が緊迫化しています。今回は、この問題に関する松本いずみの現時点における見解を簡単に述べたいと思います。

まず、結論から申し上げると、高市総理大臣の答弁は誤っておらず、撤回や謝罪の必要は全くありません。むしろ、そうしたことを行えば、「対抗措置によって脅せば日本は態度を変える」という悪しき前例を作ることになり、この国のこれからの外交に大きな悪影響をもたらす恐れがあるため、望ましくないと考えています。今回の問題が生じた大きな原因の一つには、明確な対案や日本外交の将来に対する深い考慮もなく、ただ党利党略の観点から質問を行った野党の姿勢が根本にあると考えていますが、いずれにせよ、事態を収める観点からは、中国の挑発にのることなく、冷静に対処することが必要だと思います。

1.そもそも何が起こったのか

最初に、「そもそも何が起こったのか」という事実関係を簡単にみておきたいと思います。11月7日(金)の予算委員会において、岡田克也議員が、高市総理が2024年の総裁選時に「中国による台湾海峡の海上封鎖が存立危機事態になるかもしれない」と述べていた点を捉え、「どういう場合に存立危機事態になると考えていたのか」「(コンテナ船やタンカー等が)迂回すれば食料やエネルギーが途絶えることはないのではないか」等と質問したのに対し、高市総理大臣は、「海上封鎖を解くために米軍が来援する、それを防ぐために何らか他の武力行使が行われることも想定されうる」と答えた上で、「いかなる事態が生じたかという情報を総合的に判断しなければならない」「即これを存立危機事態だと認定して、日本が武力行使を行うということではございません」等と述べました。

上記の高市総理大臣の答弁を受け、翌日の11月8日(土)に、中国の薛剣(シュエジェン)駐大阪総領事が、「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない」とXに書き込みました。その後、11月14日(金)夜に、中国外務省が、「中国人の身の安全に重大なリスクをもたらす」として、日本への渡航を当面控えるよう注意喚起を行いました。更に、11月16日(日)には、中国教育省が、中国国民に対し、日本への留学計画を慎重に検討するよう求める通知を発出するという、中国側の一連の対抗措置が公表されています。

2.高市総理答弁の評価

高市総理大臣の上記答弁を評価するに当たっては、そもそも「存立危機事態」とは何か、という点を押さえておく必要があります。2015年に成立した平和安全法制によって「存立危機事態」という概念が導入され、「我が国と密接な関係にある他国」に対する武力攻撃が発生した際に、これにより「わが国の存立が脅かされ」、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される「明白な危険がある」と判断される場合に限定して、集団的自衛権の行使が認められました。

なお、2015年の国会審議においては、こうした「存立危機事態」の具体例として、朝鮮半島有事やホルムズ海峡の機雷掃海が挙げられていました。ここで注意しなければならないのは、朝鮮半島有事やホルムズ海峡の機雷掃海が生じれば、直ちに「存立危機事態」になるということではなく、あくまで個別具体的な事実関係を総合的に考慮した上で、状況によっては存立危機事態に該当する場合もあり得るにとどまる、という点です。つまり、「存立危機事態」の認定は、あくまで具体的な事実関係を踏まえた上でのケースバイケースの判断となります。

高市総理大臣の答弁は、中国が台湾海峡を封鎖し、それを解くために米軍が来援し、その米軍に対して中国軍から武力行使がなされたケースを新たな具体例として公の場で述べたものです。日本と同盟関係にある米国が「我が国と密接な関係にある他国」である点に争いはなく、また台湾周辺で米軍に対して中国から武力行使がなされた場合に、その具体的な状況次第では、「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」と認定されうることも否定できません。したがって、内容面で高市総理大臣の答弁に誤りはないものと考えられます。また、あくまで一般論としての可能性に言及しているにとどまることから、「手の内をさらす」「手足を縛る」といった批判も特に当たらないと思います。

議論となりうるのは、高市総理大臣が、台湾有事の事例を「存立危機事態」の具体例として明言した点です。現に中国が強い反発を示していることを踏まえれば、日中関係に一定の影響を及ぼす答弁であったことは否定できません。しかしながら、そもそも今回の答弁は岡田議員の質問に答える形でなされたものであり、現に今、この点が世の中で大きな論点となっていたわけではないにもかかわらず、わざわざ昨年の総裁選時の話を持ち出して高市総理の見解を問いただした意味はどこにあったのか、という点こそが問題とされるべきです。もし高市総理が具体的事例に言及すれば、今回のように日中関係に影響を及ぼす恐れがある。他方、特に具体的なことに言及せずに一般論で留めるならば、現時点において改めて議論を持ち出す意味は特にない。「不用意な発言をした」、あるいは「見解を変えた」といったように、高市政権を追及するためだけのために、国益を考えずに行った質問であると捉えざるを得ないと思います。

なお、岡田議員は、上記の「存立危機事態」の判断基準が曖昧だという点も繰り返し指摘していますが、そもそも米国を始めとする多くの国において安全保障に係る判断の裁量の余地は大きく、それが具体的な事実関係の総合考慮になることは当たり前のことです。もし更に明確にすべきだということであれば具体的な対案を示すべきですし、仮にそうした対案が通った場合に、日米関係を始めとする我が国の安全保障に生じうる様々な影響にどのように対処していくのかという、日本の外交・安全保障戦略に関する具体的な見通しも併せて示すべきだと思います。

3.中国側の対応について

中国側の一連の対応についても、私の見解を簡単に2点ほど述べておきます。

まず、私も、中国の薛剣駐大阪総領事の「一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない」という書き込みは、外交儀礼を遥かに超えた無礼なものであるという憤りを強く感じます。その上で、私が過去に中国の外交官と仕事をした経験からは、こうした勇ましい発言は、あくまで中国国内向けに(特に指導部に対して)忠誠心を示すためのパフォーマンスに過ぎないものと考えられ、過剰に反応するべきではないと思います。

第二に、中国外務省の日本への渡航を当面控えるべき旨の注意喚起は、日本への渡航中止勧告や渡航禁止といった強い措置と比べると弱い第一段階の措置(日本の外務省が発出する危険情報のレベル1に相当するもの)であり、これについても現時点で過剰に反応するべきではないと考えています。確かに、中国の一部旅行会社が訪日ツアーの新規販売を停止した等の悪影響を報じる記事も見られるものの、中国側の意図は、恐らく高市新政権の対応を試す試金石として本件を利用したいということであり、中国側の挑発にのらずに冷静に対応することが必要だと思います。同時に、中国側が更に対抗措置の強度を強めてくる事態に備えた内々の想定も行っておくべきです。

4.今後の対応について

今後の対応として、まず、高市総理大臣の答弁は、上述の通り内容的に正しい上、仮に答弁の撤回や謝罪を行うようなことがあった場合には、中国側に対し、「対抗措置によって脅せば日本は態度を変える」という教訓を与える悪しき前例となりかねないため、答弁の撤回や謝罪を行う必要は全くなく、また望ましくもないと思います。

その上で、本件が日中双方の対抗措置の応酬にエスカレーションすることがないよう、両国がお互いに冷静になり、本件を早期に収束させていくための外交努力に注力すべきです。この観点からは、薛剣駐大阪総領事を「ペルソナ・ノン・グラータ」(日本語で「好ましからざる人物」という意味。ウィーン条約上、主権国家の権利として、理由を示すことなく、相手国の外交官の本国への召還(帰国)を求めることが出来る旨が定められている)として中国に帰国させることは避けるべきです。もし日本側がこうした措置を行った場合には、極めて高い確率で、中国側も中国に駐在する日本の外交官を「ペルソナ・ノン・グラータ」として国外に追放するであろうと考えられ、事態の収拾が更に難しくなるものと考えられます。

具体的な落としどころを検討するためには、まず中国側の意向を探る必要がありますが、例えば、薛剣駐大阪総領事が、何らか別の理由(例えば、家庭や健康上の理由等)で中国に帰国する代わりに、日本側が本件について「日本のこれまでの見解を変えるものではなく、また中国の立場に影響を及ぼすことを意図したものでもない」として、遺憾の意を示す声明を発出する、それと合わせて中国が全ての対抗措置を取り下げる等の様々なディール案を示し、冷静に本件を収束させていくべきだと考えています。どういう案であれば中国側が納得するかについては、まさに日本外交の力が試されていると言えると思います。

松本いずみは、引き続き高市政権を全力でお支えしていくとともに、日本の外交・安全保障の更なる強化に向けて、これからも全力で取り組んでいきたいと思います。